俺様常務とシンデレラ

常務は私の腕を強く掴んだまま、廊下をズンズンと進んで行く。

どこに行くんだろう……?

これまで常務と会長が特別仲良しだと感じたことはなかったけど、大人になった息子と父親として、普通の距離感なのかと思っていた。


でも違ったんだ。

常務は、会長が亡くなったお母さんの一途な想いを顧みず、無視したと思って怒ってるんだ。

だから"白馬の王子様"なんてバカバカしいって、そう言っていたの……?



「あの、常務? 私、大丈夫ですから。会長と仲直りしてください。会長の仰ったことは正しいですよ、私に自覚が足りなかったんです」


私は腕を引いて前を歩く、強張った背中にそっと話しかけた。


常務はお母さんのことがあるから、会長のことをお父さんとして、あまり信頼しきれていないのかもしれない。

だから『こいつを必要以上に傷つけるな』なんて、怒ってくれたんだよね?

悪いのは完全に私だし、責められたって仕方のないことなのに……。



常務は私の腕を掴んだまま放そうとはしないのに、背中を向け、振り向いてはくれない。

私はなんとかして、常務の強張った心を解いてあげたかった。


「会長、常務のお母さんのこと言われたとき、とても悲しそうなお顔をされてましたよ」


あれほど冷静だった会長が、その話題を出されたときはショックで表情が凍りつき、言葉も出てこない様子だった。
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