俺様常務とシンデレラ
常務が"白馬の王子様"なんてバカバカしいと言う理由も、"運命"を信じたくないと思う理由も、なんとなくわかる気がする。
だけど、常務はこの前、私に言ってくれたもん。
『お前といて、ときどき思うよ。もし本当に"運命の相手"がいるとしたら、俺にとって、それは……』
そして常務がくれた甘いキスは、すごくあたたかくて、すごく優しかった。
常務だって、本当はお母さんが信じた"運命"を、同じように信じてみたいって、思っているんじゃないの?
「会長とお母さんのことだって、常務のお母さんが"運命"だって仰ったなら、きっと、おふたりにしかわからない何かが……」
「うるせえな!」
怒りと怯えが入り混じったような常務の叫び声が廊下にこだまし、掴まれていた腕は勢いよく放された。
「俺は"運命"だとかおめでたいこと言ってるやつは嫌いなんだよ! 心底腹が立つ! そうやって現実を見ないから、傷つけられてボロボロになるんだろ!」
常務はそう言って振り向き、私の顔を見てひどく傷つけられたような顔をした。
まるで、今の私の表情をそのまま鏡に映したみたいに。
荒げられ、私に向けられた常務の激しい声。
突き付けられた言葉が鋭く喉に突き刺さり、私から声を奪ってしまう。
常務は自分が言ったことにショックを受けたように、苦しそうに顔を歪め、私から目を逸らした。