俺様常務とシンデレラ
「俺はもともとこういう男だ。"運命"とか、信じる質じゃねえんだよ」
常務はなにかに怯える子どものように、声を震わせ、ギュッと目を閉じる。
それからゆっくりと目を開くと、自嘲するように笑って、投げやりに言葉を吐き出した。
「お前と出会って、忘れてたわ。正直、ちょっと期待してた」
その漆黒の瞳に、私が映っていない。
やめて、ダメ。
それ以上言わないで……!
「俺とお前も、運命とか、全然そういうのじゃないかもな」
魔法が、解けてしまう。
私は手を伸ばし、常務の腕に縋り付いた。
何か言わなくちゃと思うのに、唇は震えるばかりで、言葉を紡ごうとしない。
そんな私を見下ろして、常務は深く沈んだ真っ黒の瞳で哀しげに笑った。
私は必死に首を振って、常務の腕を掴む手に力を込める。
「お前もいい加減に目を覚ませよ。じゃないと、いつか俺にボロボロに壊されるかもしれねえぞ」
常務は私の手を掴んでそっと腕から外し、悲しいほど優しくそう告げて、ゆっくりと背を向けた。
私にかけられた魔法は解かれ、世界がボヤけて、水の中に深く沈んでしまったかのように見えた。