俺様常務とシンデレラ
spell4: Give us kiss?
決意のシンデレラ
黒いベストを着た男の子が泣いている。
だけど、あのアンクレットを手放してしまった私には、もうどうすることもできない。
魔法は、解けてしまったんだから。
目が覚めるといつも、心にぽっかりと空いた穴が痛いほどに虚無感を募らせ、私の頬は男の子と同じように涙で濡れていた。
* * *
「絵未ちゃん、大丈夫?」
「え?」
気が付くと、随分と疲れた顔の自分が私を見つめていた。
密かにコンプレックスだった丸い頬は、若干すっきり……と言うか、げっそりした。
だけどこの1週間、常務が私の頬に触れてお餅のようにびよーんと伸ばしたり、ムニッと押しつぶしたりしたことは一度もない。
「もう帰るって言ってたのに、ちっともお手洗いから出て来ないんだもん」
「あ……すみません、ちょっとぼーっとしちゃって」
心配して様子を見に来てくれた香乃子さんに、なるべく明るく見えるような笑顔を向ける。
だけど、洗面台の鏡に映る私の顔は、相変わらず疲れたように色を失くしていた。
「いい加減元気出さなきゃダメだよ。常務も絵未ちゃんも、この1週間見ててこっちがハラハラするくらい痛々しいよ」