俺様常務とシンデレラ
隣に立つ香乃子さんは怒ったような口調でそう言ったけど、眉を下げて心配そうな表情で私を見ていた。
「とにかく、はやく帰ってゆっくり休みなさい! 会長に怒られたことだけで、そんなに落ち込んでるわけじゃないんでしょ?」
「はい……。すみません」
ふわふわしていてとても二児の母には見えない香乃子さんだけど、この1週間はさり気なく私を気遣いながらもいつも通りに接してくれる。
本当にありがたくて、申し訳ないと思うのに、なかなか抜け出すことができない。
深い海に沈められ、息継ぎができないの。
どうしたら常務に手が届くのか、わからなくなってしまった。
「はやくキラキラした絵未ちゃんに戻ってね」
眉を下げる香乃子さんに私は力なく微笑んで、重たい足取りで葦原ホールディングスの本社ビルを出た。
* * *
駅に向かってとぼとぼと歩く。
常務はあの後、模擬挙式の演出に関して、理久さんと小まめに連絡を取り合っているらしい。
だけど1週間後に迫ったオープニングセレモニーまでに、一度変更になったプランをもう一度立て直すのは難しくて、交渉はかなり難航しているみたい。
というのも、常務はすごく忙しそうにしているし、他の人がいるときは頑ななほどの外面モードだし、ふたりきりのときもどこか壁のようなものを感じてしまって、まともに会話もできていないのだ。