俺様常務とシンデレラ
「え? あー、えーっと……」
私は驚いて、視線を足元に落とす。
はじめて常務に会ったあの日から、ずっと左の足首に付けていたリボンのアンクレットは、今はそこにはない。
そう言えば小鞠ちゃん、この前のパーティーで『アンクレットは素敵だね』って言ってくれてたもんなあ。
なぜか私より常務のほうが嬉しそうにしてたけど。
「この間、ある女の子にあげちゃったの」
私はなんとなく、あのときの常務の無邪気な顔を思い出しながら、ハハハと笑った。
エレナちゃんにアンクレットをあげたことは、後悔してない。
あのときは本当にそうするべきだと思ったし、エレナちゃんの嬉しそうな顔を思い出せば、間違いじゃなかったと思える。
私にはもう、常務がいるんだもん。
「でも、やっぱり……あれが私を守ってくれていたような気がする。もう、夢を見れなくなっちゃった……」
夢に見るのは、泣いている黒いベストの男の子ばかり。
月明かりも、教会も、ワルツもない。
"白馬の王子様"や"運命"だなんて、もうお気楽に信じてはいられない。
私は常務の秘書としてもっと自覚を持たなきゃいけないし、私がいつまでもロマンティックな幻想にしがみついていれば常務が困る。
『本当の常務に恋をする』って決めたのに、覚悟が足りなかったのかな……。
もっと現実を見なくちゃ、今あるものまで失ってしまう。