俺様常務とシンデレラ
どよ〜んとして俯く私を前に、小鞠ちゃんがふんっと鼻で笑う。
そういうとこやっぱり、お兄さんに似てますね……。
小鞠ちゃんはツンと顎を上げて、まっすぐに私を見た。
夏の夜風に、小鞠ちゃんの黒髪がサラリと揺れる。
今夜はこんなに蒸し暑いのに、平然と立つ彼女の周りだけ妙に涼しそうだ。
「あのね、女の子はいくつになっても夢を見るのよ」
腕を組んで背筋を伸ばし、スッと立つ小鞠ちゃんが言った。
「え?」
「大和が言ってたの」
「ええっ!?」
私はものすごくびっくりして鞄を落としそうになった。
あの常務が、そんなこと言ったの?
あれ、でもそれって王子様モードの常務が言ったことかな?
困惑する私を横目に、小鞠ちゃんは駅前の雑踏へ目を向ける。
「まあ正確には、大和のお母さんの口癖だったらしいけど。つらくても、苦しくても、夢を見られるのは女の子の特権なんだって」
「あっ……」
そうなんだ……。
"運命"なんて信じないって言ったくせに、お母さんのその口癖を覚えている常務のことを思うと、胸の奥がきゅっと苦しくなる。