俺様常務とシンデレラ

「私はそれを信じてる。まだ子どもだからって言われるかもしれないけど、つらくて苦しいことがあるからこそ、絶対に夢見る心を忘れたりしない」


人混みの中に、誰かを探すように視線を投げかける小鞠ちゃんは、きっといつか、この中から"運命の人"を探し出す。

私はなぜかそう確信した。

小鞠ちゃんの落ち着いた飾り気のない声が、私の心のもやもやを晴らしていく。


小鞠ちゃんは、常務のお母さんのことを聞いているんだろうか。

知ってて、こんな風に言ってるのかな。



「私は、私の人生におけるたったひとりの王子様を見つける。だってそれを決めるのは私だもん。夢見ることを忘れたら、永遠に出会えなくなる」



小鞠ちゃんはそう言ってから、ゆっくりと黒い瞳に私を映し、惚ける私の様子を確認してくるりと背を向けた。

そしてスタスタと歩き出す。


「じゃあ、私の用は済んだからこれで」

「えっ! あ、お、お家まで送ろうか?」


ひとりじゃ絶対危ないよ!

絶対理久さんに怒られるし!


私が慌ててその後を追おうと足を踏み出すと、肩越しに半分だけ振り返った小鞠ちゃんがひらひらと手を振った。


「いいの。すぐそこに迎えがいるから」


うっ、さ、さすがお嬢様……!

小鞠ちゃんは上品で育ちのいい黒猫の如く、人の間を縫って、するりするりと雑踏の奥へと消えて行った。


小鞠ちゃんの用事って、いったいなんだったんだろう。

大したこと話してないような気がするんだけど、私……。
< 162 / 229 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop