俺様常務とシンデレラ
だけどそう思った瞬間、その白いものは忙しそうに行き交う人の足元でふっと消えてしまった。
「な、なんだったんだろう……? 今の白いの」
私は首を傾げたけれど、ひとつだけ、心当たりがある。
……いや、でもね。
まさかね。
だって私の住むアパートの最寄り駅は、ここから5つも先の駅だもん。
私はどうしても白いものの正体が気になったけど、ぶんぶんと首を振って、その疑問を振り切るように歩き出した。
今日はもう帰ろう。
きっと疲れてるんだ。
香乃子さんの言う通り、はやく帰ってゆっくり休んで、来週からはもう一度常務とまっすぐに向き合うんだ。
だって今日は……。
今日は……。
「あ……今日、金曜日だ……」
私はそのことにハッと気が付き、さっきの白いものに引き寄せられるように、アパートに帰る前にある場所へ寄り道することを決めた。
* * *
「や、やっぱり……!」
なんとなく、私を待っているような気がしたんだ。
私は電車を降りてアパートの最寄り駅を出てから、アパートとは反対の方向へ歩き、かつてのバイト先である『ラーメン猫丸』を目指していた。