俺様常務とシンデレラ
「こ、こんばんはぁ……」
『猫丸』へ来るのはここを辞めた日以来で、私がちょっぴり緊張しながら暖簾をくぐると、カウンターの奥に立っていた店長がチラリとこちらを見た。
店長は相変わらず無口で無愛想で、まるで私がここに来ることなどはじめからわかっていたとでも言うように、コクリと頷いただけだった。
店長にペコリと頭を下げる私の横を通ってマルが店の中にのそのそと入り、役目は終えたとばかりにカウンター席に飛び乗って丸くなった。
店内には、3人のお客さんがいた。
そのうち2人は、3つしかないボックス席のうちのひとつを使い、湯気を立てるラーメンを食べている。
そして残りのひとりは、もうラーメンは食べ終えたのか、いつものようにカウンター席で日本酒を飲んでいた。
ぽっちゃりとしたお腹をもつ彼が、何気ない様子でゆっくりと振り返る。
「おや、絵未ちゃんじゃないか!」
「東堂会長〜!」
やっぱりいた!
今日は東堂会長が『猫丸』に現れる金曜日だもん!
私は東堂会長の隣の席までぴゅーんと飛んで行って、すかさずお酌をする。
会長は目を糸のように細くして、にこにこと嬉しそうに笑っている。
「久しぶりだねえ、絵未ちゃん。大和くんのとこは辞めて、お店に戻って来る気になったのかい?」
会長はたぷたぷとした顎をなでながら、上機嫌にそう言った。