俺様常務とシンデレラ
カウンター席に座った男性にお冷を持って行くと、その人は意志の強そうな焦げ茶の瞳でまっすぐに私を見た。
「佐倉絵未さんですね?」
「えっ、そ、そうですけど……」
な、なに?
わたし、何かした?
なんだかこの人、刑事ドラマとかに出てきそうでドキドキしちゃう。
とっさにここ数日に仕出かした悪事を思い出そうとしたけど、北の方にある実家へ送る荷物を、着払いで発送したことくらいしか思い付かなかった。
名前を呼ばれてオドオドする私を見て、その男性はにっこりと笑った。
厳しい印象の顔つきがガラリと変わって、ちょっとおちゃらけた、いたずらっ子のような雰囲気になる。
「1週間ほど前、僕もあなたとお会いしたのですが、覚えていませんか?」
「え? い、1週間前……?」
はて、どこで会ったんだろう。
こんなに印象の強い人、一度会ったら忘れなさそうなのに。
私は自分の記憶をひっくり返して、うーんと唸った。
思い出せそうで、思い出せない。
どうしてだろう。
この人と会ったとき、それ以上の、よっぽど印象的な出来事があったんだろうか……。