俺様常務とシンデレラ
「はい」
静かな廊下にノックの音が小気味よく響くと、部屋の中から凛とした声が返ってくる。
「私だ」
「……どうぞ」
東堂会長がわざとらしく真面目くさった硬い声で言うと、少し間をあけて理久さんの声が聞こえ、会長はニヒヒといたずらっ子のように笑った。
会長が『さあ行け!』と目で合図をするので、私は少し迷った末に両開きのドアを押し開けた。
ええい!
もうどうにでもなれ!
もともと私が理久さんに直談判に来ること自体が無謀なんだから。
私は小さな音をたててドアを開け、目に飛び込んできたものに息を飲んだ。
な、なんて素敵な部屋なの……!
理久さんのお部屋は広々としていて、アンティーク調の家具や小物が揃えてあり、まるでヨーロッパのお城の一室のようだった。
向かって左側にはクッションがたくさん積まれた大きなベッドがあり、立派な天蓋に囲まれている。
右側には大きな窓があり、その隣の本棚には外国語で書かれた背表紙がズラリと並んでいた。
ひと目で私には読めないとわかった。
奥の壁には小さな暖炉までついていて、写真や絵画が飾られている。
部屋の真ん中にはテーブルセットが置いてあり、理久さんはこちらに背を向けてふたり掛けのソファに座っていた。