俺様常務とシンデレラ

東堂会長は、ご家族には内緒で『猫丸』に通ってるのかな……?

言ってもいいのかな……?


……ええい!

めんどくさいから省略!



「あっ、あの! 私、理久さんにお願いがあって来たんです!」


私がぎゅっとこぶしを握って理久さんの方へずんずん進むと、彼はまだ衝撃から抜け出せないのか、私の勢いに気圧されたように一歩後ずさった。

理久さんが座っていたソファをぐるりと回って向き合う。


理久さんは黒のカットソーに細身のジーンズを履いていて、足元はスリッパだった。

バリッと着こなしたスーツ姿より若干気の抜けた感じがあって、ストイックな雰囲気が和らいでいる。


「お、お願い?」


理久さんは状況についてこれていない様子で、片方の眉をクイッと上げる。

私はコクリと力強く頷いてから、勢いよく頭を下げた。


「お願いします! アジュールのオープニングセレモニーの演出を、変更前のものに戻してください!!」


私は今すぐに常務の役に立つ敏腕秘書になれるわけじゃないけれど、こうやって自分の持てる力をつかって、お願いすることならできる。

ちょっと強引でカッコつかないやり方だけど、なり振り構っていられないんだ!


「ああ……なんだ、そのことか」


理久さんはやっと状況を理解してホッとしたような、少し残念がっているような声で小さく呟いた。
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