俺様常務とシンデレラ

もうひとつの魔法









この日、日本有数の旧財閥系企業である、(株)葦原ホールディングスがニューオープンするホテル『アジュール』では、オープニングセレモニーとして模擬挙式が行われていた。




「あ、あの、ほんっとうに私でいいんでしょうか……?」

「なにを今更。この1週間、なんのために準備してきたと思ってる」

「そ、そうなんですけど……」


それはわかってる。

この1週間でいちばん大変だったのは、変更に合わせてキャンセルしてしまったものをもう一度用意しなければいけないことで、この役目もそのひとつだ。


「危惧していた演奏者はすべて葦原が手配してくれたしな。なんでも、葦原会長の懇意の方らしくて、20年前から何度も演奏会を企画してやってるんだと」

「に、20年前……」


私なんてまだ3歳だよ。


「だから、肝心のお前が今更怖気付いてどうすんだよ」


理久さんは私を見下ろして、げんなりした表情で呆れたように言っているけど、今ならわかる。

これは、彼なりに励ましてくれているのだ。


「で、でも、午前中の小鞠ちゃんがそのまま披露宴に出てもよかったんじゃ……?」


だって小鞠ちゃん、相変わらず中学生とは思えないほどキレイだったし。
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