俺様常務とシンデレラ
夢とワルツ
(株)葦原ホールディングスは、旧葦原財閥の流れを汲む日本屈指の財閥系企業だ。
都市交通を中心に、ホテル、旅行、百貨店、不動産など多様な分野で業績を上げる事業持株会社。
1週間と少し前から、私はこの会社の常務取締役の秘書として働いている。
私のボスである常務の名前は、葦原大和(あしはら やまと)といって、私と彼が出会ったあの夜に30歳の誕生日を迎えたばかり。
つい4ヶ月ほど前に常務に就任した。
彼は葦原ホールディングスの会長である葦原浅黄(あしはら あさぎ)氏のひとり息子で、その家柄に負けず優秀でかつ容姿も満点。
今日の常務はチャコールグレーのシャドーストライプが入った細身のスーツを着こなし、深いえんじ色のネクタイをしている。
彼が動くたびに、清潔でほんの少し甘さを感じる香りが、しゃぼん玉のようにふわふわと飛んで来る。
形のいい唇からこぼれ落ちる低く魅力的な優しい声。
見つめられれば吸い込まれそうな真っ黒な瞳。
彼の全ては女の子を釘付けにしてしまう。
まさに彼は、現代の王子様なのだ。
……一応、表向きは。