俺様常務とシンデレラ

披露宴会場を飛び出した私は、人のいない廊下を走り抜け、迷うことなく1階のロビーへと続く大階段を下りはじめた。

大きな螺旋階段を全力で駆け下りる。


「待て! 絵未!」


階段の中腹あたりまで下りたところで、追いかけて来た常務の声がロビーの吹き抜けに響いてこだました。


「あっ!」


驚いてさらにスピードを上げようとした私の足はもつれ、片方のパンプスが脱げてしまった。

つま先にリボンがあしらわれた、白いハイヒールだ。


ああっ!

またここにもリボン!


もはや偶然そこにリボンが使われていたことにも驚いてしまう私は、混乱の極致なのだ。

そのまま片方のハイヒールを階段の途中に残して数段下りたはいいけど、走りにくくて仕方ない。


「ええい!」


おとぎ話のシンデレラって、よくこんな状態でガラスの靴を片方だけ持って帰ったものだ!


そう思った私は、ええいままよとばかりに、もう片方のハイヒールもぽーんと脱ぎ捨ててその場に放り出した。


身軽!

ちょー身軽!


両足とも裸足になった私は勢い良く階段を下りきり、エントランスに向かって走り出そうとしたけれど……。



「つかまえた」



私がおとぎ話のシンデレラよりもどんくさいのか、それとも常務が王子様より走るのが速いのか。
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