俺様常務とシンデレラ
常務はピシリと固まってから盛大にため息をつき、せっかくキレイにセットしてもらった私の髪に指を差し入れる。
「俺は、みんなの王子様はもうごめんだけど。その、なんだ……」
私は常務の胸に顔を埋めたまま、言いにくそうに話し出した常務の様子を視線だけで窺う。
常務はほんの少しだけ耳を赤くして、苦い顔をしながら言った。
「お前だけの、あれだ……王子様ってやつになら、なってもいいぞ」
私は驚いてハッと顔を上げる。
自分で言い出したくせに、常務はなぜか悔しそうに黒い瞳で私を睨んでいるけど、赤い耳のせいでもはや怖くもなんともない。
私は感動してなんと言っていいかわからず、ぱくぱくと口を動かして言葉を探す。
「以上」
そんな言葉で強引に話を締めくくった常務は、私の唇をキスで塞いだ。
噛み付くようにして無理やりはじまったキスだけど、すぐに甘く優しく私を翻弄し、うっとりする私の頬を常務の大きな手のひらが包み込む。
私たちは床に座り込んだまま、長い長いキスを交わす。
私はずーっと見ていた長い夢から目覚めたような、それと同時にこのキスから夢が本当にはじまるような、不思議な感覚に浸っていた。