俺様常務とシンデレラ

「ふーん、気が利くな」


常務は甘い香りのするマグカップに目敏く気付くと、スタスタと私に近付いて来て、待ちきれないとでも言うように私の手の中から直接それを受け取った。

その香を吸い込んで満足そうに目を細めた常務を見て、私は思わずギュッと手を握りしめて小さくガッツポーズをした。



やった!ほらね!

今日は絶対こっちだって思ったの!



「なんでわかった?」


常務はマグカップを持って役員用のデスクをぐるりと回り、椅子に座って不思議そうに私を見上げた。


「えへへ、秘書ですから」


私がニヤリと笑ってそう言うと、常務は少し面白くなさそうな顔をしたけど、すぐに気を取り直して私が用意したココアを美味しそうに飲み始めた。




常務は紳士的でいつも笑顔で、どんな女性でも一度は憧れる王子様だ。

お飲物はコーヒーか紅茶。


だけどそれは彼のほんの一面でしかなくて、本当の常務は意地悪だし子どもっぽいし甘党なんだ。

お飲物はココア、一択。



今朝の常務は、この重役室へ入るときのドアの閉め方がちょっとガサツだった。

いつもなら音もなく優雅に閉じるのに、今日はパタンと音がしたから、王子様の仮面の下から本当の常務が出て来そうになってるって気が付いた。

つまり、疲れがたまっているらしい。
< 21 / 229 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop