俺様常務とシンデレラ
「もう! いつまでそのネタで笑うんですか!」
私が、常務が本当は王子様なんかじゃないってことを知ったのは、5日前のこと。
常務はそのときの私の惚けた顔が忘れられないって、ここ数日ずっとそのことで笑ってる。
ひとしきり笑いが収まると、ココアを飲み干して少し真面目な顔になって言った。
「だけどお前、"白馬の王子様"とか、そういうバカバカしい話が好きだろ。そして、俺にそれを重ねてた」
「うっ……、そ、それはですね……」
確かに、私は未だに王子様が現れるのを待っていたい系の女子だし、常務を本当の王子様みたいだと思っていた。
でもそれは仕方ないことだと思う。
だって、常務と出会った夜の記憶は、本当に本当に素敵なものだったから。
「"王子様像"が崩壊したって、泣いて出て行くかと思ってた」
常務はニヤリと笑いつつ、冗談半分に、だけど半ば本気で驚いたように言った。
「そりゃ、びっくりはしましたけど……」
びっくりはしたけど、がっかりしたわけじゃない。
むしろ本当の常務を知ってからは、やっとこの人とちゃんと出会えた気がして、ちょっとだけ嬉しかった。
ちょっとだけね、ほんとに。
なんか悔しいから言わないけど。