俺様常務とシンデレラ
「なんて言うか、常務は今のほうが楽しそうだし、しっくり来ますよ」
キラキラ・オーラの王子様も似合うのだけど、今みたいな、いたずらっ子のような飾らない笑顔も同じくらい似合ってる。
……まあ、私をいじめて楽しんでるのでなければ、今の笑顔のほうが素敵だって言ってあげるんだけど。
常務はその黒い瞳をくるんと丸めて驚いたように私を見つめ、もう飲み終わったはずのマグカップに口をつけた。
その状態のままモゴモゴとくぐもった声で、視線を泳がせながら言う。
「……俺も、お前とはこっちのほうがしっくり来るよ」
空のマグカップを唇から離して、音を立ててデスクに置くと、なんだかムスッとした顔の常務が私を見上げた。
あ、ほら、こういう顔、ちょっと子どもっぽいなあって思うの。
「夏目はもっとくだらない理由でお前を秘書として連れてきたのかと思ってたけど、案外あいつの思惑通りだったのかもしれないな」
「え? 夏目さん?」
夏目さんは本来、常務の父親である会長の第一秘書だけど、4ヶ月前にこの役職に就任した常務のために臨時的に常務の秘書も兼任していた。
そして会長命令で、常務にぴったりの秘書を探していたのだと言ってたけど……
まさか社外から、あの夜偶然出会った私を連れて来るとは、常務も思っていなかったらしい。
ちなみに常務は夏目さんと、10歳の頃から知り合いなのだと言ってた。