俺様常務とシンデレラ

私はスケジュール帳をパタンと閉じて、それで口元を隠しながら、探るようにジッと常務を見つめた。

常務はチラリと私を見たけど、その視線に答える気はないらしい。


「ほら、はやく戻って会議の準備でもして来いよ」

「はーい」


ニヤリと笑ってひらひらと手を振る常務にぺこりと頭を下げて、マグカップを持って部屋を出る。



重役室を出るときにほんの少しだけ見えた常務は、とても優しい表情で笑っているような気がした。

王子様モードでもないのにキラキラしているように見えて、私は反射的に慌ててドアを閉めた。



* * *



葦原ホールディングス本社の最上階には、会長室とそれに連なる重役室がある。

エレベーターにいちばん近いフロアには、秘書室が配置されていた。



「あ、おかえりなさい、絵未ちゃん」


私が秘書室に戻ると、専務秘書である新田香乃子(にった かのこ)さんがデスクでコーヒーを飲んでいた。


「どうだった?」

「香乃子さん! 今日はバッチリでしたよ〜!」


香乃子さんは肩まである栗色の髪に緩くパーマをかけていて、薄い茶色のぱっちりとした瞳を持っている。


小さくてふわふわした可愛らしい雰囲気の香乃子さんだけど、しっかり者の二児の母で、私にも秘書の先輩としていろいろなことを教えてくれるんだ。
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