俺様常務とシンデレラ
ボスの体調や気分を見極めて、その日の朝の対応を少しだけ変える。
ボスが気持ち良く1日をスタートできるように気を配るのは、秘書の大事な仕事のひとつなのだと、ここへ来た日に香乃子さんがいちばん最初に教えてくれた。
うへへ、今日のココアは我ながらバッチリだったと思うの!
ココアを受け取ったときの常務の満足そうな顔を思い出して、私はまたひとりで嬉しくなった。
「そう、よかったね」
ニッコリと笑ってくれた香乃子さんに頷いて、その隣にある自分のデスクの椅子を引く。
ウキウキした様子の私を見て、正面のデスクにいた葉月遼太郎(はづき りょうたろう)さんがふと顔を上げて言った。
「佐倉さん、以前にも増して楽しそうだよね」
「え? そ、そうですか?」
私が首を傾げて椅子に座ると、葉月さんがこくりと頷く。
葉月さんは私より3つ年上で、会長の第二秘書を務めている。
短くさっぱりとした黒髪に、くっきりとした二重の瞼で、笑うとクシャっとなる目元が印象的。
はじめて葉月さんに会ったとき、きっとこういう人を好青年って言うんだなあって思った。
私がここへ来るまでは、夏目さんと一緒に常務の秘書を兼任していたらしい。