俺様常務とシンデレラ
「かしこまりました。それではせっかくですから、この大階段を上がってみましょうか」
「ええ! いいんですか? 嬉しい!」
野本さんの提案に喜ぶ私を、常務が苦笑して見下ろしている。
ふたりきりになったときにバカにされそうだけど、それでも抑えられないくらいテンションが上がっていた。
ホテル『アジュール』のエントランスは左右に太い柱が建てられていて、数段の階段を上ると大きなガラス張りのドアが開く。
フロントのある広々としたホールは白を基調とした開放的な造りで、5階分が吹き抜け空間となっていた。
頭上にはいくつものシャンデリアが輝き、白い光を降り注いでいる。
中世の西欧のお城をイメージしたようなデザインで、正面には2階へと続く大きな階段がある。
その奥にあるエレベーターでも2階へは行けるようだけど、私はどうしてもこの階段を上ってみたかった!
「私には佐倉さんより少し大きな娘がいるんですよ。もう結婚してしまいましたが、娘も幼い頃は『お城に住みたい』とよく言っておりました」
野本さんは私と常務を案内しながら、ゆっくりと大きな階段を上って行く。
私はうんうんと頷きながら、細部まで拘ったデザインの手すりに少しだけ触れてみた。
すごい! すごい!
本当のお城に来たみたい!