俺様常務とシンデレラ
野本さんは階段を上りきると、正面にある重厚な扉を開き、私たちをその中へと案内した。
「こちらは披露宴会場となっております。ダンスホールとしてもお使いいただけますよ」
「う、うわあ……!」
目も口もぽかーんと開いて立ち尽くす私の横で、常務も微かに驚いたように声を漏らした。
野本さんはスタスタとホールの中心まで進み、私と常務は彼と距離をあけてゆっくりと歩いた。
案内されたそのホールは天井が高く、見上げれば繊細な装飾が施されているのがわかる。
女の人や白い馬の絵画が描かれているようだった。
「なんで馬……?」
「ばーか、あれはユニコーンだよ」
首が痛くなるほど真上を見上げて呟いた私に、常務がこっそり囁いた。
ほんの少しだけ王子様の仮面を脱ぎ捨てた常務に驚いて彼へと視線を移す。
常務は一瞬だけニヤリと意地悪そうに笑ったけど、私が反撃する前にまたすぐに仮面をつけて野本さんの方へ視線を戻した。
野本さんとの距離はだいぶ縮まって、この距離では囁き声でも怪しまれるだろう。
あーあ、なんかズルいなあ。
自分だけ隙をついてくるなんて。
これじゃあ私から本当の常務へはお話できないじゃん。