俺様常務とシンデレラ
野本さんが先に立ってトンネルを進み、私と常務はその後ろを並んで歩いた。
トンネルの床にはレッドカーペットが敷かれ、白い壁にはリボンが掛けられた額縁だけが等間隔に飾られている。
「この額縁の中には、お好きな絵や写真を飾っていただくことができます。結婚式にリボンのモチーフを選ばれるカップルは多いのですよ」
「リボンのモチーフ?」
「ええ。人の結びつきを表すリボンには、"永遠に結ばれる"という意味がありますから」
へえー、そうなんだ。
なんとなく黙っている常務の様子が気になって隣を見上げると、常務は野本さんの話を聞いているのかいないのか、考えが読み取れないような無表情だった。
それから短いトンネルを抜けると、目の前には茶色い大きな扉が現れた。
野本さんがその扉の前で足を止め、私と常務も少し手前で立ち止まる。
「最上階はチャペル専用のフロアとなっております。私はエレベーターの前に戻ってお待ちしておりますので、どうぞおふたりで中をご覧になって来てください」
野本さんがそう言って、重厚な扉をゆっくりと押し開ける。
目の前に広がった世界に、私はもう言葉を発することもできなくて、ため息を吐き出すのが精一杯だった。