俺様常務とシンデレラ
「お前、こういう場所で結婚式をしたいと思うか?」
「え?」
私を見下ろす常務は、形のいい眉を寄せて眉間に皺を一本刻み、思い悩むような表情をしていた。
どことなく苦しそうなその表情をなんとか和らげてあげたくて、私は慌てて頷いた。
「お、思います! チャペルも披露宴会場も、ホテルの中も全部素敵でした。きっと1日だけでも、本当のお姫様になれたような気分を味わえると思います」
結婚式って、きっとものすごく特別な1日だ。
最愛の人と結ばれる日を、こんな会場で過ごせたら夢のようだと思う。
だけど常務は私の答えを聞いても難しい顔のままで、口の端を歪めてふいっと視線を逸らす。
「ふん、まあそうだろうな。お前、"王子様"とか"おとぎ話"とか好きだもんな」
皮肉気にもれたその呟きで、私はハッとした。
そっか、常務は"白馬の王子様"とか、バカバカしいって言ってたっけ。
常務が何を悩んでいるのかはわからないけど、その気持ちが常務の中に何か迷いを生じさせているのかもしれない。
「あの、確かに私、おとぎ話に出てくる王子様に対する憧れが強いと思います。でも、それとこれとはちょっと違うって言うか……」
常務は片方の眉を器用に上げながら、おずおずと話し始めた私を見た。
真摯な態度とは程遠いけど、それでも私の話を聞こうとしてくれているように見えて、私は胸の前で両手をきゅっと握りしめた。