俺様常務とシンデレラ
すると、ふいに繊細な指先が私の顎に触れ、クイッと上を向かされる。
驚いて目を開けると、思いの外近い距離に常務の端整なお顔が迫っていた。
否が応でも、私を見つめる漆黒の瞳に引き寄せられる。
濡れたように光る黒い瞳は、今まで見たこともないほど真剣な色を帯びていて、一定のリズムを刻んでいた心臓が、その瞬間に一拍遅れたような気がする。
私の顎に添えられた指先はそのままに、常務の親指が少しだけ唇に触れる。
ゾクリと身体中に電流が駆け巡り、それと同時に甘い甘い毒が回る。
かあーっと頬が熱くなり、極度の緊張から涙がこみ上げてきた。
「お前ってやっぱ、珍しいくらいまっすぐって言うか、素直で純粋っていうか……」
常務はそう言いながらどんどん顔を近付けてきて、私の視線は低く魅力的な声を紡ぎ出す、形のいい唇に釘付けになる。
「あの、じょ、常務……」
ドキドキと大きな心臓の音が聞こえてきて、私の喉からもれた声は酷く小さく聞こえた。
吐息がかかるほど間近に迫った常務の、黒い瞳に見つめられるのが耐えられなくなり、私は再びギュッと目をつぶる。
そして少しでも動けば唇が触れてしまいそうなほどの距離で、常務は言った。