俺様常務とシンデレラ



* * *



翌日、午後。

常務が昨日、アジュールでの視察でウエディング会場を中心にしたのは、この会談のためだった。


「コーヒーふたつ、砂糖とミルクとシロップ。ティースプーンも準備OK」


私はひとり、給湯室の中で、用意したコーヒーセットに足りないものはないか最終確認をしていた。



今日の会談の相手は、東堂蘇芳(とうどう すおう)という方で、東堂銀行の元頭取。

現在は東堂グループの会長で、(株)プレジの東堂社長のお父様でもある。



常務はアジュールでのウエディングプランに関して、今日の会談でどうしても話をつけたいことがあるらしい。

私の代わりに葉月くんがエントランスまでお迎えに行ってくれたので、そろそろ会談も始まる頃だろう。




私は目の前に用意したコーヒーセットをお盆にのせながら、今朝の常務の言葉を思い出した。

ニヤリと意地悪く笑った表情付きで、頭の中で自動再生される常務の声。


『いいか、コーヒーを淹れて、お盆にのせて運び、こぼさないようにテーブルに置くんだ。お前にはちょっと難しいか?』
< 44 / 229 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop