俺様常務とシンデレラ
「それからわかってるとは思うが、『馬車馬のように働く』は、『めちゃくちゃいっぱい働く』って意味じゃないぞ。『脇目を振らず一途に働く』って意味だ」
常務がそう言い置いて部屋を出て行き、私はひとり重役室に取り残された。
あまりの悔しさから地団駄を踏む。
「むきーっ! なんなの!? ドS! 意地悪! スパルタ! 腹黒! 二重人格!」
紳士で大人っぽい王子様なんて大ウソじゃん!
私は思いつく限りの彼の悪口を声に出して、常務が出て行ったドアに投げつけた。
渡されたリストをきつく握りしめながらしゃがみ込んで、足元に散らばったままだった資料をかき集める。
もう、絶対、文句も言えないくらい完璧に書き上げてやるんだから!
ここで職を失うわけにはいかない。
またあの先の見えない就職活動に逆戻りだなんて、絶対ムリ。
この1週間は、ちょっと舞い上がっていただけなんだ。
こんな大企業の常務取締役で、しかもあんなイケメンの秘書になれたから。
でもそれも今日で終わりだ。
あれが常務の本性なら、私だってもっと気合を入れて、ご要望通り馬車馬のように働いてみせますよ!
拾い集めた資料を握りしめて、決意を新たにすくっと立ち上がる。
左の足首につけた華奢なピンクゴールドのアンクレットがサラリと揺れて、小さなリボンのモチーフがくるぶしの上を滑り落ちた。