俺様常務とシンデレラ
「いえ、彼女はまだ……」
「もしかして、まだ探していらっしゃるの?」
これまでと同じように、『恋人かと思った』という言葉を適当に誤魔化そうとする常務。
その常務を遮って、篠崎さんは心配そうに眉を下げる。
探しているって、なに……?
「いつか、仰っていましたよね。『僕には心に決めた人がいるから、他の女性と真剣にお付き合いすることはできない』って。その、確か……」
「"秘密のシンデレラ"」
どこか辛そうに言い淀む篠崎さんの言葉を、今度は常務が引き継ぐ。
私はそっと、月の柔らかな光に照らされた、常務の横顔を見上げた。
私になら、すぐにわかる。
今の常務は、外面モードであって、お世辞も建前もスラスラ言えちゃう常務だ。
だけど、私だからわかる。
「シンデレラを探しているんです。僕だけの、秘密のシンデレラを」
端整な顔立ちに月が影を落とし、他の誰かを想ってキラキラと光る笑顔を、私の胸に強烈なイメージとして焼き付ける。
長いまつ毛にキレイに囲われた瞳の色は、濡れて見える漆黒。
そしてその瞳には、王子様のような輝きと、ほんの少しの本音が混ざっていた。