俺様常務とシンデレラ
王子様と現実
「はあ……。もう帰りたいかも……」
私は長い廊下をひとりとぼとぼと歩きながら、重たいため息を吐き出した。
今頃、常務と篠崎さんは、舞踏ホールに戻って楽しくおしゃべりでもしているんだろうか。
篠崎さんが庭園に現れてからすぐに、会場へ戻ろうかという話になった。
だけど私はあの煌びやかな世界に飛び込むほどの元気がなくて、お手洗いに行くから先に戻って欲しいと言った。
ひとりきりで広い帝国葦原館の中を歩き回り、お手洗いを見つけ、戻りたくないなあと思いつつふらふらと歩いているうちに、本当に戻り方がわからなくなってしまったのだ。
ショックだった。
常務には、心に決めた女性がいるということ。
"白馬の王子様"なんてバカバカしいと言った常務が、"秘密のシンデレラ"を探していること。
その人のことなら、バカバカしいとは言わずに探せるんだということ。
それなのに、私に3度もキスをしたこと。
そして、これ程までにショックを受ける自分に、いちばん衝撃を受けた。
私、いつの間に、ここまで常務に本気で夢中にさせられていたんだろうか……。