俺様常務とシンデレラ

「い、いえ! すごく素敵で、すごく楽しかったです。でも……」


煌びやかな世界。

着飾った人たち。

群青色の綺麗なドレス。

目に入るもの全てがキラキラして見えて、館内はまるで異国のようで、いつもよりおめかしした自分もその世界の一部になったかのようだった。


『今日のきみはまさにシンデレラだろ?』


常務の言葉と一緒に、彼がくれた"シンデレラ"の味がよみがえる。

うんと甘かったはずなのに、思い出した味は少しほろ苦い。


「……私じゃやっぱり、彼のシンデレラにはなれなかったんです」


肩を落としてため息を吐き出すと、さっきまでの重たい気持ちがまた首をもたげる。

ズーンと落ち込み始めた私を、隣に座る男性が切れ長の瞳で横目にチラリと見た。


「ふん、なんだそれ。事情はよくわからんが、そんなこと思わせる男はろくな奴じゃない。こっちから願い下げだと言ってやればいい」

「そんなぁ……」

「その見た目なら男なんてすぐに寄って来そうだけどな。シンデレラだか王子だか知らないが、妙な理想は捨てることだ」


……ちょっと辛辣だけど、これは慰めてくれているのだろうか?

だけど私はその低く平坦な声にブンブンと首を振る。
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