俺様常務とシンデレラ

「彼は……。とても素敵な人です」


ものすごい外面王子だし、本当は意地悪で子どもっぽくて甘党だ。


1週間も隠していた本性を突然見せて私の理想をぶち壊し、秘書を辞めさせようだなんて、ちょっと腹黒いところもある。

信じられない量の礼状書きを命じたり、人の惚けた顔をいつまでも思い出し笑いの対象にしたり、ちょっとSっ気の強いところもある。


かと思えばいきなりキスをしたり、思わせぶりなことを言ったり。

そのくせ確かな言葉はくれなくて、彼の心の中にはずっと探している秘密のシンデレラがいる。



だけど私は、常務が私だけに見せてくれる無邪気な笑顔や、肩の力を抜いた無防備な表情に、自分でも気付かぬうちに惹かれていたんだ。

私にキスした熱い唇も、頬を包んだ少し冷たい手のひらも。



『王子様だと思える相手と、恋に落ちたいんだろ? 俺のとこに、落ちてこいよ』



あのキスが、合図だった。

ずーっと夢に見ていたおとぎ話のような恋よりも、もっと素敵な恋。


あのキスで夢は覚めて、私は、常務のところにコロコロと転がり落ちていたんだ。



「ただ私が彼には相応しくなかっただけなんです。私はお姫様じゃないし、王子様も現れないんです」


いくら王子様だと思える相手を見つけても、自分がお姫様じゃないならどうしようもないんだ……。
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