俺様常務とシンデレラ

「その王子様とやらが本当にいるなら、あんたがピンチになれば現れるんだろ?」

「え?」


きょとんとして涙の溜まった瞳で見上げると、鋭く尖った瞳が私を見下ろしていた。

そのあまりの綺麗さ故の冷たさに、一瞬ゾクリと震えが走る。



「それなら、なってみるか? ピンチってやつに」



あっ、と思ったときにはもう、背中を広いソファの上に沈められ、私の身体の上には大きな影が覆い被さっていた。

押し倒され、端正な顔が迫ってくる。

緩慢な動きではなかったけど、もしも本当に私に王子様がいたなら、その人が助けに入るための時間は充分にあった。




だけど、王子様は現れなかった。




薄い唇が触れる瞬間、冷たい手のひらに口を塞がれ、彼は自分の指先に唇を押し付けた。

直接唇は触れずとも、その鋭い瞳はボヤけるほど近くにあり、彼の唇は手のひらを隔てて私の唇に重なっている。



驚いて何も言えない私としっかりと目を合わせてから、彼はゆっくりと上体を起こして離れていく。


それでも私の身体は動かず、妙に高く見える天井の一点だけを、目を見開いて見つめていた。
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