俺様常務とシンデレラ
「その無防備さを改めて、もっと現実を見るんだな。そうすればそのいけ好かない男も忘れられるし、恋人のひとりやふたり、すぐにできるだろ」
ソファの上に倒されたまま浅い呼吸を繰り返す私を、冷たい目で見下ろす彼。
蘇芳色のネクタイを締め直し、クルリと背を向けて離れていく。
「……そろそろ本腰入れて探すか。あいつもどこかで変な男に捕まってそうだ」
小さく呟かれたその声は私の耳をすり抜け、静かな廊下にポツンと浮かんで消えた。
溢れ出しそうだった涙はすっかり引っ込み、心に空けられた穴の中に、ぽたぽたと零れ落ちていくようだった。
* * *
私はここに遊びに来たわけじゃない。
常務の秘書として、時間外勤務を命じられて来たんだ。
ふらふらと人の波に流されながら、眩しく見える会場の中で、いつか常務に行き会うのを待っていた。
私は、シンデレラにはなれなかったから……。
もしかしたら、もう、常務を見つけ出せないかもしれない。
着飾った大勢の人に埋れながら、わけのわからない不安に苛まれる。
気を抜けば嗚咽がもれ、迷子の子どものように泣き出しそうだった。
「おっ! そこのお嬢さん、お一人みたいだけど、誰かと逸れちゃったのかな?」