俺様常務とシンデレラ
行く当てもなく歩いていると、突然右側から声をかけられ、ぐんっと肩を抱き寄せられた。
「あ、あのっ……」
「せっかくの周年記念パーティーなのに、ひとりじゃ退屈だろう? お酒を飲んで、語らい合って、出会った男女は手を取り合い踊り出す! それでこそ歴史ある葦原家のパーティーさ!」
「は、はあ……」
ダメだ……。
もう振りほどく元気もないよ。
私は力の入らない身体を男の腕に任せたまま、その人をそっと見上げてみた。
明るいシルバーのタキシードを着て、ミルクティーみたいな髪の色をしている。
キラキラ・モードの常務には遠く及ばないけど、おとぎ話で言えば、育ちの良い貴族のお坊ちゃんって感じかな。
カボチャパンツとか似合いそう。
ニコニコと微笑む顔は人が良さそうで親しみやすい感じだけど、だいぶお酒を飲んだのか顔が赤い。
それでもまっすぐに立っているし、意識もしっかりしているみたいだ。
もともとフレンドリーな性格なんだろう。
「お嬢さん、あまりお酒を飲んでないね?」
「まあ……」
曖昧に頷くと、カボチャパンツ(仮想)の彼は私の右手を取り、その中に小さなカクテルグラスを押し付けてきた。