俺様常務とシンデレラ
冷静になれば、全てを思い出してしまう。
常務を慕う、美しい女性たち。
常務の唇の温度と、低く囁く声の響き。
『現実を見ろ』と言った、鋭い目の男の冷たい声。
私の身体を支える、常務の力強い腕の感触。
彼の心の中にいる、秘密のシンデレラ。
常務は私に無理やり水を飲ませ、空になったコップをローテーブルの上に置くと、私の隣にぽすりと腰を下ろした。
両手で私の二の腕をそっと包み込み、ふたりの身体を向かい合わせる。
右手を優しく私の頬に滑らせ、眉を下げて心配そうに私を見つめている。
私はなんとなく、わかっていた。
どれだけ意地悪なことを言おうと、本当の常務は、王子様の仮面を被った彼とは比べものにならないくらい優しいんだってこと。
ただそれを、素直に見せてくれないだけ。
むやみやたらに、優しさを振りまいてはいないだけ。
それはきっと、本当に大切な人のために、心の中にたっぷりと溜め込まれているんだ。
常務はそのことに、気付いているんだろうか……?
「そんな泣きそうな顔して……。なにがあった?」
常務は手のひらを滑らせ、親指で目の縁をゆっくりとなぞる。
その手で私の髪をなで、大きな手のひらを頭の後ろに回して引き寄せる。
反対の腕を背中にあてて、静かに私を抱き寄せた。