俺様常務とシンデレラ

「なんで、私に、キスなんてするんですか……?」

「なんでって、そりゃあ……」


濡れた頬を軽く拭って顔を上げると、常務は少し身体を離し、困惑したように言葉を詰まらせた。

私は唇を噛んで少しの間我慢したけど、すぐに耐えられなくなった。


自分の気持ちに気付いてしまった以上、それを抑えるのは難しいことで、だったら言ってしまうしかないのだ。


これ以上、この人に恋する気持ちが、加速してしまわないように。



「好きなんです!」



これは、常務をこれ以上好きにならないための告白だ。

だから私はなるべく迫力が出るように、精一杯眉を寄せて常務を睨みつけ、きっぱりとそう言った。


それなのに、驚いて目を丸くする常務の顔を見てしまったら、気持ちが溢れてきて、濡れた頬をさらに涙が滑り落ちる。


「わた、私、王子様に憧れてたのに、全然王子様じゃない本当の常務のこと、好きになっちゃったんです!」

「お、おい……」

「だから! だから、もうあんなことしないでください!」


ギュッとお腹に力を込めているはずなのに、声が震えてしまう。


「心に決めた人がいるなら、お願いだから、もう二度としないで……」
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