俺様常務とシンデレラ

「アホか! お前は俺の何を見てんだ。あんなのただの言い訳に決まってんだろ!」

「だ、だってぇ……」


だって、あのときの常務の瞳には、確かに本音の色が浮かんでいたもん。

ぼろぼろと零れる涙が常務の手を濡らし、常務は呆れたような、心底参ったというような顔で、頬を引っ張る手をパッと離した。


「なんで本当だと思った?」

「……なんとなく。常務が全くのウソを言ってるとは思えませんでした」


常務は小さくため息をついて、私の頬を優しく拭った。

漆黒の瞳に子どもみたいに泣きベソをかく私を映して、聞き分けのない子にするように、丁寧に言い聞かせる。


「そんなアホみたいな話を信じてたのは、もう随分昔のことだ。今はもう、他に目がいかないくらいには、お前に参ってる」


常務は私の濡れた右の瞼にキスをして、それから反対の瞼にもキスを落とした。

そして魔法の呪文を囁くトーンで、少しだけ唇を触れさせながら、低くて甘い魅力的な声を直接私に注ぎ込む。



「もうお前しか、見えないよ」



む、むぅ……!

ダメだよ、絵未、踏ん張れ!

ここで絆されたらまた同じことでしょ!


「わ、わかりません」

「あ?」

「ちゃんと言ってくれなきゃ、わかんない!」
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