胡蝶蘭
ふときになり
西園寺さんを見つめる。
視線に気づいた西園寺さんは
なんだ?と目で聞いてくる。
『下の名前なんていうんですか。』
ずっと気になっていたことを聞く。
その瞬間
一瞬部屋が凍りついたような気がした。
しまったと思った。
ホステスのお姉さんたちが西園寺さんの
下の名前を呼ばないのは
訳があるのかもとこのときまで
思いもしなかった。
『すみません、やっぱり「ランだ。」』
やっぱりいいですと言おうとしたら
遮られた私の声。
『ラン、さん?』
「あぁ。嵐と書いてランと読む。」
そうなんですか
と相槌を打つあたしに
お前は?ときく西園寺さん。
『知ってるんじゃないんですか?』
少々皮肉をこめていえば
「お前の口からききてぇ。」
なんて苦笑いで返ってきた。