色のない世界。【上】
顔を上げるとじじいが真っ直ぐに女を見ている。
女も同様にじじいを真っ直ぐに見ている。
「…美桜様はこいつと出会ってから変わられた。幼い頃のように笑ったり、終いには私の怪我までも心配してくださった。もう嫌なんだ、道具として毎日を過ごす無の美桜様を見るのは…!」
最後に女は声を荒げた。
よっぽど美桜のことを大切に助けたいと伝わってくる。
そんな女をじっと見つめるじじい。
無表情のじじいは何を考えているのか全く読めない。
「…黒女の護衛人が道具を守るために一族に反するか…面白れぇ」
じじいが小声で何か言ってニヤリと笑ったのが分かる。
久しぶりに会った俺でも分かる。
このじじいの顔はイタズラがしたくてしょうがねぇって顔。
つまりあの九条院家に喧嘩売るってことだ。