色のない世界。【上】
「お前は道具なんかじゃねぇ。
お前はちゃんとした人間だ。
感情もある、外の世界に憧れる女だ。
俺はお前を一度も道具だなんて思ったことねぇよ」
…心が洗われていくよう。
ああ、ずっと言われたかった言葉。
大好きなお母様にも言ってもらえなかった。
『私は道具なんかじゃない』
ずっと誰かにこの言葉を言ってもらいたかった。
私は人間でいられた。
悠汰様の前では普通の人間でいられたんだ。
それだけでもう十分です。
あなたにそう言ってもらえて、私の世界は色づきました。
悠汰様の肩を押す。
私の行動に悠汰様は目を見開く。
私は最後に悠汰様に微笑む。
そして次にはまた以前の空っぽの自分に戻す。
「…涼音、今すぐこの部外者を追い出して。
追い出せば謀反の疑いについて、湊兄様に無くすようにお父様に掛け合ってもらうわ。
湊兄様、私はあなたを九条院家次期当主と指名します。
あなた以外とは子供を作りません。
これを条件に涼音の無罪をお父様に掛け合っていただきたいのです」
「…美桜様!?正気ですか!?」
「おい、美桜!」
悠汰様に肩を掴まれても、それをすぐに振り払う。
涼音が驚いていてもそれを無視し、私は湊兄様を見つめる。
湊兄様は驚いていたが、やがて興味を持ったのかニヤリと笑った。
「…悪くねぇ条件だな。
あの親父に涼音のことを掛け合えば、お前は俺を次期当主に指名してくれんだろ?
こんなうまい話、乗らないわけにはいかねぇよな。
いいぜ、乗ってやるよ」
「ありがとうございます。
湊兄様なら乗ってくださると思っておりました」
私は湊兄様に頭を下げる。
湊兄様は次期当主の座を手に入れたも同然なのか、くっくっくと余裕の笑みを浮かべた。