色のない世界。【上】
だから私は言う。
言うことなんてないと思っていた、この言葉を。
「…助けて………
私を助けて……!悠汰!」
また目から零れ落ちた水。
どうして目から流れるのか分からなくて、でも止められなくて。
それでもいい。
あなたが優しく拭ってくれるのなら。
「ぐあっ!」
私の言葉を合図に、涼音が藤馬を体術で倒した。
「…道具の分際で!この俺を裏切るのか!
許さねぇ、ぜってー許さねぇ…ゔっ!」
湊兄様が苛立ちを露わにして私に襲いかかろうとした。
でも涼音がすぐに湊兄様を床に叩きつけ、捕らえた。
「坊主、ここは任せて早く行け!
美桜様をしっかり守れ!」
「…涼音!」
悠汰は本棚から何かを持ち出すと、私を軽々と抱き上げた。
涼音を置いていきたくなくて、名を呼んだ。
涼音は一瞬驚いたけど、やがて眉をハの字にして微笑んだ。
涼音が笑うところを久しぶりに見た。
そして涼音は私に何か言っていたが、悠汰が窓の外に出たことで理解することは出来なかった。