色のない世界。【上】
お嬢様が窓を閉めることなど今までなかった。
何者かが侵入した時も、わざと音をたてて私を呼んでいた。
まさか自ら賊を窓から逃がしたのか?
いや、お嬢様にそのような感情、あるはずがない。
仮にお嬢様が賊を逃がしたのなら、その賊はお嬢様の存在を知ったということ。
見つけ次第、すぐに始末しなければ。
「お嬢様、何か身の危険を感じましたら、すぐに私等をお呼び下さい。決して賊を助けるなどなさいませんよう」
念を押すように少し強めの口調で言った。
でもお嬢様はただコクリと頷き、また辞書を読み始めた。
…お嬢様は変わってしまわれた。
昔はよく私に笑いかけて下さったのに…
こんな地獄から救ってあげたい、でも私にはどうすることもできない…
これが私の仕事だから…
お嬢様、涼音は一体何をしたらあなたを笑顔にすることができますか…?
【side end】