色のない世界。【上】
すると譲司の背後にいた胡梅は胸の谷間からスマホを取り出し、誰かと通信している。
譲司はチラッと胡梅を見て、話題を変えるようにゆっくりと重文に歩み寄る。
「…時に重文。桜花は元気にしているか?
ずっとベッドに臥せってるって聞いたけどよ」
譲司の意味深な言葉に何かを感じ取ったのか、重文は眉間にしわを寄せた。
だが表情を見せないようにすぐにフッと笑った。
「…なんだ、手に入れられずに今更負け惜しみを言いに来たのか。
あぁ、手に入れようとしたのはお前の息子だったか、あいつは悔しくて来てないのか?
随分と小心者だな、鷹沢組組長は」
重文は鷹沢組組長・喜史を嘲笑う。
自分の息子を嘲笑われても、譲司の表情は怪しい笑みを浮かべたまま。
そして通信を終えた胡梅が譲司の耳元に近付き何かを囁いている。
それを聞いた譲司は更に余裕の笑みを浮かべた。
「…今回はちと違う。
下剋上……いや、リベンジって言った方がいいか。
儂の孫が手に入らなかったものを、見事手に入れたみてぇだ」
「…っ!貴様、美桜を取ったな!」
譲司の言葉をすぐに理解した重文は怒りを露わにした。
重文が自分の思い通りに反応したのが面白かったのか、譲司はクックックと笑った。
「…ってことで今日は宣戦布告に来た。
お前んとこの大事な大事な嬢ちゃんは、儂等鷹沢組がいただいた。
返して欲しけりゃ、かかってきな。
全力で相手してやるよ」
「貴様ぁー!凱斗!こいつらを殺せ!」
重文は激怒し、大声で凱斗を呼んだ。
怒った重文を見て、胡梅は肩を竦めた。
「ほら。大将が怒らせるから彼、凱斗を呼んでしまったわ。どうするの?」
「…どうするもこうするも、逃げるしかねぇだろ」
譲司がニヤリと笑うと胡梅は眉をハの字にして困ったように笑い、譲司を引き寄せ床に何かを投げつけた。