色のない世界。【上】
黒髪の男性は立ち上がると悠汰の頭を叩き、「お前は寝てんじゃねぇよ!」と言う。
悠汰は叩かれて目が覚めたのか、男性と言い合っている。
この言い争いを止めるべきなのか悩んでいると。
「…ねぇ、今の見ちゃったんだけど。
いつ兄、悠兄の頭叩いた…?」
声のする方を見ると、髪を一つに縛った女の子が寒気のする気を放ち立っていた。
「や、今のは違うぞ!?悠汰が寝てたから起こしてやろうとだな…」
「起こすんだったら、他に方法があるでしょ?
ね?そう思わない?」
「そうだな…わりぃ」
この女の子は見たところ男性よりも年下。
それなのに、男性の方が何も言えなくなっている。
『尻に敷く』…妻が夫を軽んじて思い通りに従わせる。
辞書でこんな言葉が載っていたけど、このことを言うのだろうか?
そんなことを考えている間、眼鏡の男性もその女の子に何か言われていた。
一通り言い終わると、女の子は次に私を見た。
私も何か言われるんじゃ…
そう思うと自然と体が強張る。
私の考えとは裏腹に、女の子は私を見るとニコッと笑った。
「美桜さん、ごめんなさいね。こんな奴らで。
私達はあなたに自己紹介をしようと思って、集まったの」
じこ、しょうかい?
初めて聞くその言葉の意味が分からなくて、首を傾げる。
女の子は眼鏡の男性の隣に座ると、再び私を真っ直ぐに見てきた。