色のない世界。【上】
【side 涼音】
懐かしい温もりを感じた。
それは儚くて、でもとても温かい。
その温もりをずっと追いかけていた。
でもいつも追いつかず、敵うことはなかった。
そこにいるの…?
手を伸ばそうとするが、手が思うように動かない。
手が上に持ち上がっていて……
「………っ!」
勢いよく目を開ける。
真っ先に映ったのは古びたコンクリート。
そうだ。
私は美桜様を助けて、後から来た追手に捕まったんだ。
ずっと手を上に吊るされ、手の感覚がない。
拷問を受けて身体中が痛い。
そんな痛みよりも心配するのは、美桜様の安否。
美桜様は助かっただろうか。
外の世界に出られただろうか。
あの坊主に色んなことを教わって、生きているだろうか。
美桜様に何かあったら化けてあの坊主を呪ってやる。
『涼音!』
美桜様が私の名前を笑顔で呼ぶ。
美桜様は笑顔を取り戻せただろうか。
昔のように輝かしい、あの笑顔を。
美桜様が笑っておられるのなら、化けて出る必要もないか。
坊主ならきっと美桜様を笑顔にしてくれる。