色のない世界。【上】
コツコツコツ……
めったに人の出入りがない地下牢に、足音が響いた。
足音は一つじゃない。
…二人、か。
複数であるということは、拷問の時間か。
拷問をやるくらいなら殺せばいいものを。
護衛人の代わりなど、他にいくらでもいるはず。
複数の足音が牢の前で止まる。
一人は黒い革靴、そしてもう一人は高価な革靴だった。
護衛人が履くような靴じゃない……!?
「随分と様になったじゃねぇか、涼音」
「もう少し惨めになってて欲しかったですけど、坊っちゃんがそういうならこれでもいいですね」
どうして貴様らがここにいるんだ。
「…九条院…湊…、藤馬…!!」
鉄の柵の前でニヤリと笑うのは、九条院家第4男・湊とその護衛人・藤馬だった。
「この俺を呼び捨てとは、いいご身分だなぁ?
守るだけの道具がよぉ!?」
湊は声を荒げ、目の前の柵を蹴った。
余程あの時のことが頭にきているようだ。