色のない世界。【上】
「お前が邪魔してくれたおかげで、黒女を逃がしちまっただろうが!
それに俺が怒られるはめになるしよ!」
くそっ!くそっ!
湊は怒りをぶつけるように何回も柵を蹴る。
何しに来たんだこの男は。
溜まりに溜まった鬱憤を私にぶつけに来ただけか。
「美桜様に逃げられたのは、貴様の策が劣っていたからだろ?
それを私にぶつけて、何になる?」
「…てめぇ!」
それに、
「私に構う暇があったら今度は逃がさないような策を考えたらどうだ?
まぁ、考えるだけ無駄だと思うがな」
「涼音!口が過ぎるぞ!」
何も言えなくなった湊に代わり、今度は藤馬が口を挟む。
だがそんなの造作もない。
「なんだ藤馬。
私に敵わなかったくせに主人の前ではいい子ぶりか?
忠犬というのは恐ろしいものだな」
「…くそがっ!」
こいつらが本当に九条院家第4男とその護衛人なのか、疑ってしまうほど愚か。
こんな奴等ばかりなら、九条院家は滅んだ方がいい。