色のない世界。【上】
悠汰の顔がまともに見れなくて俯く。
何を言われるのか怖い。
私のことを嫌いになった?
「あいつはどんな奴なんだ?」
「…え?」
私の耳に降ってきた言葉は、私の考えとは全く違うものだった。
あいつって涼音のことだよね?
どうして今そんなことを聞くの?
優しい声に顔を上げれば、悠汰は小首を傾げて微笑んでいた。
涼音は…
「涼音は物心ついた時には傍にいたわ。
彼女は代々九条院家の人間を護衛する護衛人の家柄で、涼音はたくさんある柊家の中でも柊の血を濃く受け継ぐ本家の生まれだったの。
血を吐くような辛い修行をしても、何本骨を折っても毎日必ず私に顔を見せに来たわ」
脳裏に思い出すのは、涼音との懐かしいやりとり。
ーこの時私が8歳で、涼音は15歳だった。ー
『美桜様、ご機嫌いかがですか?』
『涼音!来てくれた……ってそのけがどうしたの!?』
『これですか?これは母上にやられました』
『やられましたって、足の骨を折ってるじゃない!
そんな大けがをしてる時は来なくていいって言ってるのに』
『いいえ。
私は美桜様に会うのを楽しみにしてるから、修行も頑張れるのです。』
だからその楽しみを取らないでください?
どんな大怪我をしてきても、涼音はいつも私にそう言って笑っていた。
そんな涼音の笑顔が幽閉された私にとっては、元気の源だった。